第2章 ビビりの迷子としゃべる犬、そして狐の面の男
_________
けっこう歩いたけど、途方もなく続くその道に疲れてしまって、月明かりがまだ当たる木の近くに腰をすえる。
虫もこないでほしい。
いや、虫でもいいからウルシみたいにしゃべらないかな、なんて都合のいいこと思って見渡すけど、今度は生きたものの気配なんてまるで感じない_____
「世界に私は1人だけって感じか…」
そうぽつりとこぼし、また夜空を見上げる。
「何がしたかったんだろ…どこにいきたかったんだろ…私はさ、誰にいてほしくて、誰と歩みたかったんだろ…何を見て、何を感じて、何を思って、何を手にしたかったんだろうね…」
吐き出されるとめどない心の疑問には誰も答えてくれるはずもなく、ただ大きく肩をおとす。
随分と大きな独り言だ。
はたから見たら単なるヤバイ奴だなこりゃ。
また立ち上がって歩き出す。
それでもこの道が合っているんじゃないかと、やっぱり感覚で思うから。
きっと私は今いろんな意味で迷子になっているんだ。
自分自身についても
自分の人生についても
すべてにおいて、いくべき道がわからない…
そう思ったらなんだか情けなくて
簡単に目の前はゆがみだす。
下を向いてこぼれそうな涙を、こぼすまいと前を見上げると、少し先に映るぼんやりとした影___
もうこの期に及んで、お化けは勘弁だ…
と思いながらよく目を凝らしてみる。
「人…」
視力がそこまで言い訳でもない上に、涙でゆがんで見えにくい。
でも人影だ…
「!?ぎゃぁあああ!も、やだー!!」
私の眼にはっきり入ったのは、不気味な狐のお面をした人。もう何の試練なのこれ!
腰がぬけたのか、抜けそうになったのか、前にこけかけたところを無理やり踏ん張って態勢をかえて、その人とは逆に走り出す。
もと来た道をまっすぐ、走って、走って、森を駆け抜けて、涙をふきながら、ただ走った。