第3章 薄月
「大野…あれは、お母さんなのか…?」
先生は、少しずつ俺に近づいてきて。
肩に手を載せた。
「この部屋は…どうしたんだ?」
ぐっと、俺の肩に載せてる手に、力が入った。
「…おまえがやったのか…?」
先生の顔は、暗くて。
見たこともないような軽蔑の目…
その瞬間、目の前に白い火花が散った。
怒りで、叫びだしそうだった。
「…どうして…どうしてそうなるんだよ…」
「え?」
「俺じゃない…俺は…」
喉から熱い塊が上がってきて。
声が出せない。
息が苦しい。
「…大野…ちゃんと答えなさい」
母さんの絶叫が、響き渡ってるのに…
やたら先生の声は鮮明に聞こえた。
「智ーーーー!この親不孝者!おまえまで私を裏切るのかーーーーっ!出せ!ここから出せぇーーーー!」
なんで俺は…生まれてきたんだ…
「もおっ…勘弁してくださいよっ…こんな酷い家庭内暴力があるなんて聞いてないっ…私、辞めさせていただきますからっ…!あとは会社と話してくださいっ…」
家政婦さんが床に鍵を叩きつけて、這うような格好でリビングから出ていった。
「大野っ…ちゃんと話してくれっ…」
俺を見つめる先生の顔は…
怯えと
軽蔑と
寝室から物凄い音が聞こえてきた瞬間…
先生は俺の肩に載せてた手を離した
俺は、ボストンバッグを掴んで、全速力で走り出した
家を飛び出して、めちゃくちゃに走って
逃げた