第3章 薄月
side S
大野の足元は、まだビーサンのままだった。
すれ違って遠ざかっていく背中は、やっぱり猫背で。
それはいつもと変わらないのに、足元は寒そうで…
母親の声を思い出す
抑揚のない、平坦な声…
俺を拒絶するような、沈黙…
いろいろ考えながら、昨日よりも小さく見える背中を見送った。
あれから…一晩。
クラス資料をひっくり返して全部目を通した。
それを眺めながら、学校での大野は問題がないように見えた。
特別仲がいい奴が居るわけではないが、特別仲が悪いわけでもなさそうで。
むしろ大野は迷惑がっているが、クラスの奴らには好かれてるような節もある。
からかっているような雰囲気ではない。
五関の時のようなものは、感じなかった。
なのに、大野の雰囲気は五関のそれと重なる。
「…ビーサン…」
季節外れのビーサンを履いて学校に来るのに、母親が何も言わないわけがない。
「…ネグレクト…か…?」
高校生になる男子が、自分の履物くらい自由に選ぶとは思う。
だけどビーサンはない。
校則でも禁じられているそれを、なぜ大野は履いてきたのか。
他に靴がないからだ。
…根深いのかもしれない…
大野の、闇…