第2章 寒月
次の日、大きな叫び声で目が覚めた。
また、母さんがリビングで怒鳴ってる。
布団を被ってやり過ごそうとしたけど、カズヤがまた明日って言ったのを思い出して…
それに…櫻井と約束したし…
やっぱり起きることにした。
洗面所で顔を洗った。
顔の腫れは、少し収まってる。
部屋で制服に着替える。
時間を見たら、ギリギリだった。
慌てて部屋を飛び出してリビングに行く。
玄関から母さんの叫び声が聞こえてる。
おかしい
そっとリビングを抜けて、玄関まで行くと…
「父さん…」
母さんが出ていこうとしてる父さんにしがみついてた。
「行かせないからっ…裏切り者っ…裏切り者ぉっ…」
父さんが疲れ切った顔で、母さんを振り払った。
大きな音を立てて、廊下に母さんは転がった。
そのまま、気を失ったのか、動かなくなった。
「智…」
突っ立ってる俺に気づいた父さんは、三和土に散らばってる俺の靴だった残骸を見た。
「…これで、新しいものを買いなさい」
そう言って、スーツのジャケットに手を入れて、黒革の財布を取り出した。
「父さん、またしばらく戻らないから…家政婦は新しい人手配しておくから…」
そう言うと、玄関の棚の上にお金をむき出して置いた。
学校に着くと、ギリギリだった。
校門前まで行くと、櫻井が俺のこと、じっと見てる。
「…おはようございます」
「おはよう」
そう言って、櫻井は俺の足元をじっと見た。
ビーサンは、やっぱまだ寒い。