第8章 幾望
「夢…?これが…?」
「そう。ワクワクして、考えてるだけで楽しい。それが夢」
「でも、旅行したら終わっちゃうよ…?」
「そりゃあ…そうだろ。夢なんて、1個じゃなくてもいいだろ?」
「あ…」
「また、その先に別の夢ができるはず…そしたら、一個一個叶えていけばいい」
そうじゃない?って顔して、俺の顔を覗き込んできた。
その顔に、ちゅってキスした。
「お」
「ありがとう!翔…多分、そう。これ、夢だ…!」
夢…
一個できた!
「…よかった」
「うん…ありがとう」
「おう…」
ぎゅうっとシャツの胸を掴んだ。
なんだか体が温かい。
そうかあ…これが夢っていうのか…
「…俺も夢できたな…」
「え?翔も?」
「智と、海外を回るって夢…同じ夢だよ」
翔は微笑んで、俺を見た。
「後は、智の将来だなあ…智が何になるのか、何になれるのか…一緒に考えて、そしてそれを叶えていくって夢ができたな」
「翔……」
翔が俺に向かって手を差し出してきた。
手を置くと、俺の手をぎゅうっと握ってくれた。
「…2個もずるい…」
「ん?じゃあ、智の夢…一緒に考えようか…」
「すぐ出ないもん」
「じゃあ、まずは昼飯と晩飯の夢でも見ようか…」
「なにそれ」
「今日食うものがない。だから買い出しに行かないと…」
…翔…
「なにそれ…全然ロマンがない…」
「あ、そういうの求める人?俺、結構そういうの苦手よ?」
「知ってる…」
…ありがとう…
「よし、じゃあ買い出し行くぞ!」
「はーい、先生…」
「なんだ家だと良い返事なんだがな…学校でも頼むよ?」
「…ヤダ…」
「おいっ…」
翔が出かけるのに、着替えに行った。
俺はこのまま外に出ても良い格好してたから、リビングで待ってた。
「あ…」
ゴミ箱のなかに手を突っ込んだ。
「ふふふ…これ、お守りにしよっと」
ヘッタクソなチワワ…
「ふふふふふふ…」
紙を見てニヤニヤしてたら、翔がリビングに戻ってきた。
「おーい。智、行くぞ」
「はーい!」
外に出たら、真昼の月が俺たちを見下ろしていた