第1章 意地悪悪魔さま
「………いい匂い」
朧が目を覚ますとすでに愛しい彼の姿はなく。
代わりにキッチンから聞こえる規則的な包丁の音。
嗅覚を刺激する甘い匂い。
「………寝坊助」
嗅覚を刺激する甘い匂いに誘われてリビングへと赴けば。
朧の姿を見つけたルシエルがふ、っと微笑む。
「おなかすいた」
「ああ、すぐ出来る」
「ルゥのご飯、おいしいから好き」
「だから、纏わりつくなって。作れない」
キッチンへと駆け寄り腰へと抱きつく朧に、言葉とは裏腹に優しく笑うルシエルは。
包丁を置き、朧の頭を愛しそうに撫でてやる。
猫のように顔を緩めて。
朧は顔を上げた。
「ん」
そのままキスを乞うように目を閉じれば。
思惑どーりに甘い口付けが、降ってくる。
「へへへ」
嬉しそうに笑う朧の姿にまた、ルシエルも嬉しそうに目を細めるのだ。
「……ルゥ、夜どっか行った?」
「いや?なんで?」
「夜目覚めた時、ルゥいなかった」
「気のせい、だろ。また夢でも見たんじゃないのか」
「………うん、そーかも」
安心したように微笑んで、トーストを頬張る朧に。
考え込むように目を細めるルシエルの表情は、見えてない。
疑問が解決した朧からはすでに疑いは消えてなくなり、目の前にある食欲を満たすためだけに頭は指令を送るから。
単純でわかりやすくて。
素直で。
純粋で。
自分とは正反対にいる朧を。
何があっても守り抜くと決めた。
愛し抜くと、決めたんだ。