第1章 意地悪悪魔さま
太古の古から。
伝えられていることがある。
『逢魔が時』。
あやかし、魔、物の怪、怪異。
それらは姿を現す。
人々の願いを叶えるため。
人知を越える力を得る代償として捧げる対価は決して安くはない。
それなりのものが、支払われる。
すなわち『生命』。
人の血肉、命。
それがやつらの餌となるのだ。
『悪魔さま、悪魔さま、私をお嫁さんにしてくださいませ』
昔、そう、願いを乞う少女がいた。
『それが貴様の願いか?』
『どんな願いも、叶えてくださるのでしょう?』
『そうだ』
『でしたら、私をお嫁さんにしてください』
にっこりと微笑む少女。
悲しみも、懇願も。
殺意や憎しみ悪意も。
何も感じない。
純粋に、『死』への、憧れ。
『私をこの苦しみから、開放して下さいませ』
片膝を突き、深々と頭を垂れる少女。
『その願い、聞き入れた』
悪魔は少女の体を浮かせると、目の前までそのまま少女を連れてくる。
顎を右手で少し上を向かせると。
その唇に。
自らのそれを、押し当てた。
『名は?』
『朧』
『朧、今この瞬間からお前は、俺の妃となった』
『………ええ』
『その願い、叶えよう』
『ありがとう、悪魔さま』