第2章 アイ・ワズ・アイ
―――手が、止まる。何度も何度も、読み返す。入隊したばかりのころに、市丸を気にかけていて。真似事みたいに、髪を伸ばす。
「…っあのドアホ、」
目頭が熱くなる。胸に込み上げるものが、喉を震わせた。
散々悪口も言われているが、幼馴染以外で初めて心を開き、頼っても良いと思える大人だったという言葉は、きっと。きっと、アイツにとって自分は、藍染の謀略に嵌ったただのマヌケな元隊長ではなく、何かしら思うところのある存在であったということなのだろう。それだけで、少し救われたような気がした。アイツの手が震えていた理由をこの百年ずっと考えてきた。ずっと知りたいと思いながらも、もしかしたら自分の都合の良いように記憶を改ざんしているだけで、本当は市丸は笑っていたのかもしれないと思うことさえあった。記憶違いではなかったのだ。百年前に、あの少女と自分が過ごした時間も培った関係も。あの悪夢のような夜に、震えていた小さな手も、たしかに在ったのだ。
「尚更、お前にはちゃんと会って話さなあかんなァ…市丸」
「ほー。おぬし、こういうタイプが好みか」
幾分かすっきりした気持ちでぽつりと呟くと、後ろからさも当たり前のように話しかけてくるこの化け猫は。
「なっ…よ、夜一お前!帰ったんやなかったんか!?」
「はっはっは、帰るなんて一言も言うとらんぞ。しかしまぁ、おぬしがあの小娘を気にかけておったのは知っていたが、まさかここまでとはな」