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徒花まみれの心臓 ~企画~

第1章 フー・アム・アイ


そんな愛じゃ世界は救えない












5月29日。五番隊は毎年、この日はいろんな意味で忙しい。


「副隊長、準備バッチリです!」


「ん、ありがとさん。ほな私も行こか」


残業もなしに、この日だけは2時間繰り上げで仕事を終える。浮き足立つ隊士達。それに苦笑しながら宴会場へ行くと、そこには五番隊の隊士だけでなく各隊の隊長格をはじめとする見慣れた顔が揃っていた。京楽サンに日番谷クンや乱菊、東仙サンや檜佐木クン。雛森チャンの同期である吉良クンや阿散井クン。銘々に挨拶をしながら、席に着く。そうして間もなく、主役の登場と共にわっと場が盛り上がる。


「「「「お誕生日おめでとうございます、藍染隊長!!!!」」」


驚きもせず、いつものように柔和な笑みを浮かべて、彼は口を開いた。


「――ありがとう。嬉しいよ」








宴会が終わり、酔っ払いたちを各隊に送り届け、風呂に入る。寝る準備を整えながら、まったく藍染隊長の「表の顔」の人望には恐れ入る、とひっそり笑う。そうして、悲しくも思うのだ。隊士達の信頼も憧憬も、祝いたいという気持ちさえ、彼には何も響かない。たくさん贈り物を貰っていたけれど、それも使われることはないのだろう。だからこそ、私もこれまでに贈り物を用意したことはなかった。彼には必要ないだろうとふんでいたし、これまでも言及されたことはなかった。けれど、彼と過ごした数十年の間で彼の心に触れて、憎しみ以外の感情を抱くようになってしまった。彼のために一応は用意した、渡しそびれた上等な酒瓶を見遣る。これを用意するのにも多少の葛藤はあった。明確に、彼のためだけを考えて用意したもの。これを渡してしまえば、私の中で何かが変わってしまう気がした。


「…恐いだけの人であってくれたら、どんなに良かったか」


好き、とは違う。孤独から救いたい、なんて傲慢さも抱いていない。ただ、彼の孤独に寄り添えたらいいな、とは思う。知ってしまった。恐いだけの、冷たいだけの人ではないのだと。触れてしまった。彼の不器用な優しさと、どうしようもない孤独に。それからは、憎しみだけを抱き続けることができなくなってしまった。どうせ、藍染隊長はそんな私のことも全てお見通しなのだろう。甘いやつだと馬鹿にされているのだろうか。


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