第37章 外伝
耳はまだあの優しさを覚えている
十刃に抱えられ、姿を消してしまった市丸隊長。総隊長は何も言わなかったけれど、その場にいた全員が隊長を探し回った。虚圏に幽閉されていた隊長格もすぐに呼び戻され、事情を聞くや否やすぐに隊長を探した。その後ろ姿を、ただ静かに見送った。
総隊長と二言三言会話を交わし、僕は三番隊舎へ戻った。隊長から預かった隊首羽織を手に、隊長が見つからないことを祈っていた。
「三番隊花の花言葉、憶えてる?」
僕が三番隊の副隊長に昇進して間も無くの、虚退治の任務が終わったある日のこと。帰り道、市丸隊長は僕に問うた。
「"絶望"ですよね」
「せや。みんなあんま気にしはらんけどな、隊花って大事なんや。その隊の色をえらい正確に表しとる。せやから私、隊長なるん、三番隊で良かった・て思うてるんよ」
遠くを見つめながらふわりと微笑む市丸隊長に少し見惚れる。この麗人は、僕が真央霊術院に在籍していた頃から憧れていた人だった。憧れの人の副官になれて嬉しかった。だから、この人が居るのならばどの隊でも良かったし、三番隊の隊花の持つ意味など考えたことも無かった。
「戦いいうんは、英雄的であったらあかん。爽快なモンであってもあかん。戦いは、絶望に満ち、暗く、恐ろしく、陰惨なモンでないとあかんよ」
「……」
「せやから人は、戦いを恐れ、戦いを避ける道いうんを選ぶんや」
「それが、三番隊の隊花---金盞花の持つ意味なのですか?」
「多少自己解釈も入ってるんやけど、大体はそうやね。戦いは絶望や。私らは死神としていろんなモンを斬る。虚を斬る。それを、正しいことやと思うたらあかんよ」
これが三番隊の矜持なのだと、隊長は語る。僕がこの人に憧れる理由は、この人が僕を救ってくれたからだ。あの日、藍染隊長の副官として現れた市丸隊長は、虚から僕を救ってくれた。その姿に、その強さに憧れた。だからこうしてこの人を追いかけてきたのだ。けれど、今の隊長の言葉を聞いて、僕はまさに隊長を英雄的に見ていたのだと思い知らされる。
「どんな理由があろうと、私らが何かしらの命を奪って生きとる事実は変わらんのや。せやから、戦いが終わった後な。賞賛の声を気持ち良く思うたらあかん。その前に、奪った命を悼まなあかん」