第50章 前方の敵
最悪の気分を引きずり、重い甲冑の兜を脱ぐ。
重いのは気分、体の重さは二の次。
(振り落とされる前に、斬られたように見えた)
胸元に突きつけて囲っていた腕を引いたその時、刀の上部が瑠璃の胸部を引き裂いていた。
政宗、流石の動体視力だ。
(斬り口は深かったか?
あの急な斜面を落下して無事でいられるか?)
斜面に当たらずそのまま落下すれば、水面に打ち付けられる。
高さからして酷い打身になるはずだ。
斜面を転が落ちても、岩や木にぶつかって全身打撲の重傷だ。
斜面を落ちる方が危険だ。
何をどう考えても無事とは程遠い。
生きてたとしても
(あの流れに飲まれれば…)
探すあてもない。
流され打ち上げられていればまだしも、沈んでいたら…
水死。
政宗の頭によぎるのはその2文字だった。
「くっそぉぉっ」ガシャァン‼︎
声と同時に大きな音が響いた。
政宗が脱いだ鎧の胴を地面に投げつけたのだった。
探しにも行けない。
探すあてもない。
考えるのはのは何処かで死んでいないかと言う事ばかり。
(生きていて欲しいっ)
そう思うのに、
死んでしまっているかも知れないとばかり考える。
クッッ
奥歯を噛み締めて、天幕を出た。
冷たい空気を軀に感じる。
凪がない不安の波を胸に月を見上げた。
(瑠璃……)