第38章 晴れの離宮
「雨雲は去ったようだな」
天主、外廻縁から遠眼鏡を覗いた信長が晴れ晴れと笑った。
町のむこうに短い列が北へ向かっていた。
姫は輿の中で考えていた。
光秀の言葉を。
『戦をし、人を殺し、襲い、金品を強奪する』
『我らには不必要な戦も必要なのですよ。
平和をもたらし、戦を終わらせる為の戦がね』
(私は何も知らなかった。
なんの覚悟もなかった…)
「姫様、姫様」と言われる自分に陶酔し溺れていた。
そんな今までの自分が恥ずかしく思えた。
(あの人は覚悟があるのだろうか…)
だからあんなにも静かなのか。
輿の小窓を開き、光を取ると
瑠璃からだと渡された文を開いた。
『桃李不レ言 下自成レ蹊』
桃李もの言わずとも 下の者自ら 蹊を成す。
世を見、賢く知恵のある人になってください。
憎悪は何も生まず、壊すのみです。
とだけあった。
「知ったような事を……
アンタなんか大嫌い」
と言って
藤隆姫は文を大切そうに懐にしまい、
小窓を閉めた。