第36章 嵐 天主へ寄る
藤隆姫の城での目に余る姫たる態度に、
城に上がっている誰もが陰口を言い始め、
根も歯もない話も広がり始めた。
それは当然、藤隆姫の耳にも入り、姫を苛立たせた。
姫のその苛立ちは、陰口や噂話をしている者ではなく、瑠璃へと向いた。
(どうしてっ)
藤隆姫は着物の裾を強く握り締めた。
憎嫉に突き動かされた藤隆姫は、
それに任せて天主へやって来ていた。
「信長様、藤隆姫かお越しです」
信長は怠そうに手にしていた文を文箱に投げ入れると、楽しい遊びを見つけたようにニヤッと笑った。
「入れろ」
実に愉快そうな声だった。
藤隆姫が頭を下げて入って来た。
「何用だ」
重い声音が高座から響いた。
「はっ。はいっ…あの…瑠璃殿が…」
藤隆姫は頭を下げたまま、恐る恐る声を出す。
(瑠璃殿、な…)
信長は唇の端を上げ、目を細めた。