第33章 撹嵐の姫君
城内
「南蛮風の庭ですか。
さすが信長様ですわ」
藤隆姫は手を叩いて大袈裟に褒めた。
「ところで美弥様。
瑠璃殿の姿が見えませんが、
どちらに行かれたのですか?」
自分が追い出した事は棚の上だ。
「気になりますか?」
美弥はあえて質問を質問で返した。
「いっいいえっ、何故、私がっ」
藤隆姫は慌てて取り繕う。
藤隆姫は、ただ、瑠璃が困って、泣いて、不自由な思いをしていればいい、と思っていた。
だから、尋ねたのだった。
「信長様が特別にお部屋を与へられたので、
瑠璃さんは信長様の離れに泊まってるんですよ。
私もまだ入った事がないの」
瑠璃が信長にも眼をかけられていることを知らしめたくて、美弥はワザと『特別に』と言ったのだったが、藤隆姫の反応は美弥が予想していたものとは違った。
「美弥様も入った事がない場所に瑠璃殿が?
酷い、美弥様の物を横取りしたのねっ」
「え“……」
(なんでそんな解釈になるの⁉︎)
そんな風にとられると、瑠璃が悪者になってしまう。
美弥はオロオロする。
「瑠璃殿がいなければ美弥様が1番にお入りになったのにっ」
怒りの矛先は確実に、何としてでも瑠璃に向ける藤隆姫。
それに美弥は唖然としつつも、
底知れぬ恐怖を感じた。