第30章 奥州からの一行
伊達家に使える大條実頼の下の娘が今、
ここに座っている藤隆姫だ。
「…あ、あ、…あのっ、…ワタクシは…」
頭を下げての挨拶口上は畳にでもしているのと同じだったのだろう。
スラスラと舌も滑らかだったが、いざ、
信長を見て話をするとなって、
姫は身が竦んで、舌を噛みそうになり、
上手く声も出せないでいた。
フッ…
怯えた姫の様子を信長は、いとも楽し気に見おろしている。
人が萎縮し、言葉を紡げるないで焦れている姿は信長の大好物だ。
信長だけではない、人とはそう言う動物である。
人は皆、優越感を感じたい。
「どうした、藤隆姫。
先程は美しい声で挨拶を申したではないか。
ククク…
その美しい声をもっと聴かせてみろ」
意地悪を言われ、姫は益々縮こまる。