第26章 京に立っ薫煙
光秀は板で出来た囲いを見上げていた。
「この短時間でここまでするとは…」
光秀の隣に立つ家臣が舌を巻いた。
「見せたくない物には目隠しを、臭い物には蓋をする、か」
息をはくように零した言葉に
「おや、狐は鼻も効くのか」
憎笑の声音が光秀の背後から聞こえた。
振り返れば
嫌そうに顰められた細い眉、
細められた眼、
「追われたはずの貴方がここで仕掛けるとは、なかなか、往生際が悪い、足利将軍」
足利義昭がいた。
「京の地も権力も、我のものだ。
それは変わらぬ」
「ククッ…それは変わったのですよ。
何故お分かりにならぬのか」
「私が生きている限り、変わりはせぬっ」
認めれば敗北しか残らない。
認めればこの世に留まる意味を棄てることになる。
だから
「義昭様……」
将軍は認める訳にはいかないのだ。
「しかし、貴方の手駒は既に片付けた。
残るのは貴方と、この中にいる者達だけですよ」
光秀が不敵に笑ってみせても、
義昭将軍も余裕の笑みをみせている。
「中は中、外は外、遠くは遠くだ」
(遠く?何の話だ?気を逸らす為か?)
光秀の心の内がザワザワと騒いだ。