第26章 京に立っ薫煙
(この女中…)
瑠璃は思い出していた。
(ああ、庭で見た人だ)
「ねぇ、貴女、この花の名は何と?」
瑠璃はまだ目の前にいた女中に声をかけた。
「⁉︎」
女中はビクッと肩が揺れて、恐ろしい物でも見たような顔をした。
「ひっ、姫様がっ…わたくしなどに、こ、声を、かけられては、なりませんっっ」
(やっぱり答えへんな)
「まぁ、そのような事はないわ」
「でっ、…でっ、でもっっ」
女中はひどく狼狽して、舌を噛みそうなほど吃る。
血の気の引いた顔。
それでも、瑠璃は続ける。
「花の名は?と問うただけでしょう」
不思議そうな顔で小首を傾げるも
「わっ、わた、わたくしはっ、
花の名はっっ、しっ…し、知りません。
お許しをっ」
女中は、転げはしまいか、という勢いで立ち上がると、逃げるように出て行った。
((何かを知っていた))
(知ってるくせに、逃げよった……)
後ろめたい事がある態度だと信長と政宗は見ていた。