第26章 京に立っ薫煙
堺の町は今日も賑わっていた。
「大坂は本当に、五月蠅い処よのう」
義昭はさも嫌そうに顔を顰める。
「だったら来なけりゃいいだろ」
元就が面倒臭げにボソっと悪態をついた。
「そうだな…お前が堺で商いをする間、
私はこの喧騒を逃れておく」
「おっ、オイッ、何処行くんだよっっ、勝手すんなって」
元就が慌てて呼び止めたが、
義昭は風の吹く様に去ってしまった。
京へ出発の早朝、光秀は天主へ居た。
「お前も行く?」
「はい、今すぐ立とうかと」
「珍しいな」
信長が片眉をあげる。
「誠仁親王様が蹴鞠をと…」
その言葉に信長がわざとらしく驚いてみせる。
「ほぉ、貴様が蹴鞠が得意とは、今し方、初めて聞いたな」
「…秘密にしておこうと思っていた事でして…」
光秀もニヤリと笑う。
「お前の隠し事は多岐に渡るな…」
愉快そうに信長は笑って、脇息に肘をかけなおした。