第25章 強く在れ
夏の名残か海の上の陽射しはジリッと熱く輝いていた。
「珍しくついてくるとかどう言う心境の変化だ?」
元就は独り、甲板で銀々と光を受ける海を見ながら首を傾げる。
(堺……あの女はどうしてるだろうな)
元就は黒髪の月の様な女を思い出した。
京はまだ暑さが残っているだろう。
薄衣の白い寝巻きに赤い痕を散らしてやろう。
我が念を 集めて降らす 涙雨
夢叶うても 明けぬ夜かな 義昭
船内で独り、足利義昭は静かに心の中で詠む。
波乱を生むかも知れない念を込めて。
風を受けて進む船は青空に見えない暗雲を率いていた。