第21章 文蛍
フゥ〜…
気を取り直そうと政宗は息を吐いてから言った。
「お前は楽しい事が不足し過ぎてる。
俺がいなきゃ寂しいって事、俺が教えてやる」
瑠璃の顎を掬い上げ、しっかりとそう言った政宗に瑠璃が眉を下げて困った様に笑った。
「それは、もう知ってます……
いつも私の周りで騒がしい政宗がいないと、
火が消えたみたいに静かで寂しくて、
悲しくて辛くて、死にそうになるって事、
もう、経験しました。
あれはもう2度と味わいたくないよ。
だから、ずっと私の傍に居て下さい」
願い乞われたように感じた。
嬉しかった。
「あぁ、ずっと傍にいる」
政宗は自分が思うよりずっと優甘な声音で答えていた。
(傍で、楽しいってことも、寂しいってことも、俺がもっと教えてやるよーー…)
政宗の強く勇ましい顔が近づいて、
甘い瞳が細められ、唇が重なった。
チュッ…
「ん…チュッ、チュッ…ぅん…まさ…ね…
…蛍ぅ…フゥン…くちゅ…」
「そんなもん、後で、見ろ…ンちゅっ…今は、俺を、ヂュッ…見てろ」
政宗らしい台詞に瑠璃は応えるように甘く笑って、自ら唇を寄せた。
(この人は本当にー…)
目を閉じていても、蒼く強く凛静として、
(綺麗だ)
そう思いながら瑠璃も、そっと瞼を伏せた。
夏の夜に たゆう光 導かれ
振り返れども 朧に見えぬ 懐郷の景
我が心 淡く 蛍に似て
懐抱 出来ず 散り消える 瑠璃
※懐郷…かいきょう/故郷を懐かしく思う。
※懐抱…ふところに抱く、胸中の思い。