第10章 猜疑の船旅
「寝首でも掻いてしまいましょうかね〜」
趣味の悪い冗談。も、
「おぉ、言うなっ!
まっ、けど、そんなの弱点でも何でもねーだろ〜。返り討ちにしてやるぜ?」
はっははは…と元就は笑い飛ばす。
花の様に明朗に笑う瑠璃に対して、
今、元就は、不信のカケラもない。
「何はともあれ、本当にありがとうございました」
再び御礼を述べる光秀。
その隣りに立って、瑠璃も深々と頭を下げた。
そんな瑠璃を眼を細めて、眩しそうに見てから、元就が光秀に向かって笑う。
「また、機会があれば会う事もあるだろうよ」
「そうですね。必ずその時が来るでしょう」
光秀が姦面に鋭い眼で元就を捉えてから、媚笑した。
「元就様、またお会い致しましよう。
お元気で」
「ああ、嬢ちゃん。またなっ」
軽く手を上げ、2人を送り出した元就。
遠ざかってゆく背中を見ていると、
風にでも吹かれたかの様に、フワッと瑠璃が振り返った。
「…瑠璃?…」
瑩浄として、それでいて甘艶と、
心を溶かす様な微笑で、小さく手を振って、
瑠璃はまた背を向けた。
「…チッッ…何で、そんな…
カワ…イイ…こと、すんだよっ!////」
(すっげぇ、疑わしい女のくせにっっ)
ドキドキした事を隠したくて、
元就はひとり、内心で悪態をついた。
※姦面…かんめん/よこしまな表情。
※媚笑…こびるように笑う。