第9章 西国見聞録
「先程、船員の方が『毛利様』と呼んでいらっしゃったので、
西の猛将、毛利元就様だと……。
間違っておりましたら、失礼をお詫び申し上げます」
丁寧に頭を下げれば、サラサラと瑠璃の黒髪が溢れて落ちた。
元就は、瑠璃が詫びる姿を黙って見ていた。
「…………いや、いい……」
(白か黒か……)
「間違ってねぇよ。
俺は毛利元就だ」
そうは言っても、元就は疑義し兼ねているようだった。
が、瑠璃は上目遣いで、元就の顔色を窺いながら頭を上げると、
「ほッ……失礼がのぉて安心したぁ〜」
安堵の笑みを見せた。
その笑顔は、たおやかでありながら潤美。
男心を魅惑しつつ、
猜疑を溶かす可憐さをも見せる、
完璧な作られた美笑。
(…う…っっ…)
元就が押された。
※疑義…ぎぎ/疑わしくて決定出来ない。