第14章 ディスコース
覚悟はしていたが予想以上に静かで不思議な空気間に、いやでも隣に意識が散る。一方轟はあまり機嫌がいい様子でもなく俯いたまま。
なんとかこの妙な空気を脱却しようと私はできるだけ気さくな口調で彼に話しかけた。
『えっと…お昼ご飯たべた?』
「…いや」
『食べないの?』
「…」
『…よかったらこれ、食べる?なんか食べとかないと後で倒れちゃうよ』
適当に選んで買ったパンの山から、無難なメロンパンを取り出せば彼の前に差し出す。
「……いい」
『でも轟くんなんだか顔色も悪いし、食べとこ。ね?』
「………ハァ」
それでも菓子パンを押し付ける私に、彼が大きめなため息を吐く。おっとこれは怒らせたかな、なんて思っていると少し間をおいて彼は私の手からメロンパンを受けとった。
「…悪いな」
『いや、まあ押し付けたようなもんだし』
「自覚はあるのか」
『あはは、まあね』
そのまま袋を開け、パンを取り出せば一口一口と食べ始める彼。そんな轟を見てなんだかホッとすれば、再び自分の食事を再開した。
そしてしばらく無言の中、私たちはパンを頬張り続ける。
なんとなくだが、パンを頬張り続ける轟は徐々に穏やかな顔つきへと変わっている。先ほどまで何をそんなに思いつめていたのか私には分からないが、だいぶリラックスし始めてくれたようだ。
まるで今までそっけなかった野良猫が少し心許してくれたかのような感覚に陥れば、彼を野良猫に例えてしまったことに思わず心の中で笑う。
それから黙々と二人で食べながら空を眺めれば、私のこれからの試合への緊張も次第にほぐれていった。
(…ああそういえば)
と唐突に先ほどの騎馬戦での出来事を思い出せば、考えもなしに口にだした。
『…そういえばさっき左側使ってたよね』
「…は?」
『一瞬だけだったけど…緑谷くんがハチマキ取ろうとした時炎が見えた気がして。見間違えだったらごめんだけど』
「…」
炎、そう口にすればまた再び目が座る轟。