第9章 ビギニング
爆豪と一緒に帰った日から、数日が経つ頃。
私はといえば今まで皆無だった友達という存在につい浮かれ、雄英での日々を、仲間との時間を少しずつ心の拠り所にしていた。
彼らと共に歩む時間だけは、自分の立場や過去も忘れられるような気がして。
しかしそんな平和な時間も少しつづ、気づかないうちに音を立てて崩れ始めていく。
その日の出来事はきっと、これから壊れ始めていく日常の警告、最初のヒビだったんだろうと、今では思う。
その日、ヒーロー基礎学は特別訓練場でのレスキュー訓練だった。
各々の判断でヒーロースーツに身を包めば、1-Aは全員でバスへと乗り込む。バスに乗り込めば続々と席に着き始める生徒たちに続き、空いている席に腰を下ろす。
ちょうど隣にいた轟くんはすでにいつもの眼差しで外を眺めいて、彼との少し前の出来事が脳裏をよぎった。
帰りのホームで彼から話しかけてくれた上に、彼の個人的な個性の話までしてくれた。
彼の話を思い出しながら、轟くんへと振り向けば左が氷で覆われたスーツが目の入る。
今みれば、どんな気持ちでこのスーツを考えたのかが伺えて、他人事ながらなんだか胸の奥が少し締め付けられるような感覚に陥った。
私ごときがそんなこと思う資格すらないことを思い出せば、すぐさま視線を彼から外す。
「…なんだ」
『あ、ごめんジッと見ちゃって』
「別に…なんか言いたいことがあるなら言え」
『ううん、そういうわけじゃないけど…』
いまだ轟くんとの距離感がつかめず、返答に困っていると私の反応から察してか。ついたら起こしてくれ、とだけ言い残せば轟くんは目を閉じてしまった。
安堵からか罪悪感からか分からない小さなため息をつけば、視線を前に戻す。
先ほどからザワザワとうるさいバス先方に耳を傾ければ、どうやら爆豪が上鳴たちにいじられている最中だった。
学校が始まってからしばらくで彼のどうしようもない性格はクラス全員公認のものになっているらしく。
怒鳴り散らかす彼と漫才のような会話を続ける上鳴と飯田を聞いていれば、私もつい ふと笑いがこぼれた。
「もうつくぞ、いい加減にしとけ」
相澤先生に釘を刺されれば、間のなくしてUSJと略名された訓練場にバスがつく。