第7章 ダークブラウン
その後、緑谷を抜いたクラス全員で教室に戻り、ひどく平凡な午後の授業で、またなんでもない日常が戻ってくる。
ぼんやりとエクトプラズム先生の授業を聞き流しながら、またさっきの非日常を思い繰り返した。
ヒーロー…
ヴィラン…
私はヒーローになれるのかな。
ツバサは、ヒーローになれていたのかな。
今はもういない弟の名前を思い出す。
そんなことをまた考えれば、忘れていた奥深くにあるしこりのようなものでつっかえ胸が苦しくなる。
空気を吸う度に何かが引っかかるような、そしてその代わりに酸素ではない何か嫌なものが肺いっぱいに広がり始める感覚。
一度その気配に気づけば、もう考えずにはいられない。
浅くなる呼吸を整えようとノートに目を落とせば、真っ白なページが視界いっぱいに広がり、酔う。
息苦しい、
めまいがする、
心臓の鼓動が、
早い、
痛い。
キーンコーンカーンコーン…
鐘の音が脳に響くが、動かそうにも体がピクリともしない。
嫌な何かがどんどん身体中に巡り始め、
指先から、
頭のてっぺんまでかき乱す。
次第にガヤガヤと椅子を引きずる音、生徒の声、
そして人の足音で教室が溢れる。
しかしそれはまるで私の恐怖を助長するばかりで、耳を押さえたくなる。
悲しみや、怒りとはまた違う得体の知れない感情に、目の奥がジワジワと熱く瞳に涙が溜まる。
こわい誰か助けて、だめだ 自分で直せ。
直せ直せ、直せ、なおせなおせなおせ、
ばれる、ばれる、いたい、
どうしよう、
こわいよ
だれか
「おい希里?」