第21章 サイン
後日、予定通り朝から職場体験が始まれば、保須市のパトロールとヒーロー殺しの情報を探す。しかし1日かけても特に大きな進展はなく、そのままその日は日が暮れてしまう。
その後エンデヴァーは夜中もパトロールへと出かけるが、未成年の私たちはホテルへと戻ることに。
初日にして特にこれといった成果もなく、なんだか緊張で強張っていた体から気が抜けてしまう。平和なのは一番だが、それでもなんだか拍子抜けで。
確かにステインはまだこの保須市にいるはずなのだが、どうしても現実味が湧かず。
モヤモヤしたままゆっくりと大きなベッドに横になれば、疲れていた体がふかふかのマットレスに沈んで行く。
少し休憩するだけのはずが、次第にうとうとと意識がぼやければそのまま眠気に身をまかせる。
最近は何故だか常に眠いという状態が続いていて、正直眠れる時はできるだけ寝ていたいのが本音で。
そのままゆっくりと意識を手放せば、間入れずに頭の中に映像が流れ始める。それはまるで明晰夢のごとく、自我が働き自分の意識がはっきりとしているような不思議な感覚で。
初めての経験に驚き、辺りを見渡せば、見覚えのある川が目の前を流れていた。
(この川は…)
悪い予感が全身にしびれ、私は考えるより先に川へと飛び込む。
夢のはずなのにまるで体が温度を感じているように手足が冷えていき、体が小刻みに震える。
流れの速い川を必死に進もうと前へ前へともがくも、水の抵抗で思うように足が動かず。
それでも無我夢中で川の奥へと進めば、
あの声がきこえる。
お姉ちゃん、
お姉ちゃんッ
苦しそうにもがくツバサの姿が見え、またスッと血の気が引く。
ツバサ!
大きく彼の名前を呼ぼうとするも、思うように声が出ずに口はパクパクと動くだけで。
それでもなんとか重い足を前へにだし、水の中を掻きわける。
お姉ちゃん、
たすけて –––– ッ
いつのまにか顔まで水が迫ってきているのに気がつけば、一気のごぽごぽと水が口に流れ込んでくる。
肺が徐々に水に犯されていく感覚に、強い吐き気を催す。
いつの間にか自分の体は当時の姿に縮んでおり、うまく体が動かせない理由を察する。
いまいくよ、お姉ちゃんが助けるから––––ッ!
その叫びも虚しく、ツバサへは届かない。