第20章 ブラッドレッド
『またね』
そういえばまた笑顔で手を振り、暗闇へと帰って行く切島。彼の背中が見えなくなれば、私もやっと中へと入った。
そのまま服を脱ぎ、すぐにシャワーを浴びるため浴室に入る。
今日はだいぶはしゃいでしまったこともあり、かなり眠たいが明日も学校なので風呂を浴びないわけにもいかず。
(切島くんに気を遣わせちゃったな…これで何度目だろう)
そしてシャワーを浴びながら、先ほどの彼を言葉を考える。
私には仲間がいる。
それはわかっているつもりだ。
みんなこんな私に優しくしてくれて、気を使ってくれて。
お昼を一緒に食べてくれる人もいるし、休日にまで遊びに誘ってくれる。以前とは全く比べ物にならないほど恵まれている環境に、少なからず慣れてきている自分がいる。
でも、これでいいのだろうか。
私は本当にこのまま、何も考えずに楽しく幸せに過ごしていいのだろうか。
私は本当に、過去を置いていってしまうのか。
母を、
父を、
弟を。
綺麗さっぱり、何事もなかったかのように?
ジワジワと胸が締め付けられるような感覚に、目を瞑る。嫌な煙が身体中に流れていけば、手足の次第に震えてくる。
吐きたいのに、吐けない感覚。
(いや、いやだ…)
これ以上はもう立っていられずに、逃げるように風呂場を出る。急いでタオルに包まれば、着替えもせずにベッドへと逃げ込む。
濡れた髪の毛が枕を濡らし、ひんやりと体が冷えていく。
(もう眠って、眠って忘れたい…)
そう自分に念じれば、目をきつく閉じる。
(早く眠りたい…起きていたくない…早く眠って、眠って…)
胎児のように小さく縮こまれば、次第と思考がぐらついてく。
(早く…早く…はやく…)
そして私は、
ゆっくりと意識を飛ばなした。