第19章 デベロップメント
「親父の事を許したわけじゃねえ…だがあいつは腐ってもナンバーツーだ。学べる事はあるし、お前にも悪い話じゃないだろう」
『そりゃあそうだけど…』
確かに私には思い描く理想のヒーロー像もなければ、こだわりがあるわけでもないのでちょうどいいのかもしれない。少々安直かもしれないが、トップにもっとも近い存在から学べる機会なんてそうそうなのも事実。
「…正直な事を言えば、俺が希里に近くにいて欲しいんだ」
『え?…な、なんでまた』
「もしあいつと一緒にいる事で、また理性が効かなくなって前のような思考に戻ったら…その時は側で、俺を止めて欲しい」
『私に?』
「ああ、希里はこないだ自覚ないと言ったが、お前の存在はそれだけ俺にとって大きい」
『ええ…と』
さっきから薄々思っていたが、轟には照れという感情はないのだろうか。
恥ずかしげもなくこういう事を言うもんだから、さすがの私でも恥ずかしくなってくる。私はしばらく考え、決意すれば彼に返事をする。
『轟くんの気持ちは…その、まだよくわかんないけど。でも私も職場体験先にだいぶ迷ってたし、エンデヴァーから直接学べるならこんなチャンスはないと思う。せっかくだから、その誘い受けるよ』
「そうか、よかった」
そのままいつも通り世間話をし始める私たちだが、こちらは未だ心臓がドキドキだ。いつも通りの表情だがどこか嬉しげな彼に、未だ慣れなくてむず痒くなる。
体育祭以降からかなり表情が豊か…になったかはさておき、以前と比べてだいぶ分かりやすくなった彼に私は正直まだ動揺を隠しきれない。
彼がいい方向に変われて前へ進めるのは大変喜ばしい事だが、この調子だと心臓がいつくあってももたない気がする。これからの彼との職場体験に不安を募らせれいれば、いつの間にか昼休みは終わってしまっていた。
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