第3章 Kissから始めよう
「いらっしゃいませ~」
「……」
「…潤…意外に、似合うな…ぶふっ」
にっこり笑ってやると。
ニノは呆然としたまま、固まって。
智は面白そうに肩を揺らして笑った。
「ちょっと智っ!話が違うじゃんっ!可愛いメイドさんに会えるんじゃなかったの!?」
「ここにいるじゃん、可愛いメイドさん」
「こんな顔の濃いメイドさんじゃないのがいいっ!」
「…悪かったな、濃くて。入るの?入んないの?早くしてくんない?後ろ、つかえてるから」
入り口んとこで大宮コンビがうだうだやってるから、教室の前には列が出来ちゃってる。
「入るよ。せっかく来たんだし」
「ご主人様お二人、ご案内しまーす」
ワントーン高い声を出すと、後ろでぶーっと吹き出すのが聞こえた。
「潤、かわいい」
「えーっ、そう!?智って、変わってるね…」
まだごちゃごちゃ言ってる二人を窓際の席へと案内した。
「なにになさいますか?ご主人様♡」
「…今、語尾に♡ついた…」
「ぶぶぶっ…かわいいじゃん。あ、潤…じゃなかった、メイドさん。一緒に写真撮ってくれる?」
「写真は一枚200円でーす」
「高っ!」
「金取るのかよ…じゃあ、はい」
智が俺の手からメニューを受け取り、その代わりにポケットから取り出した200円を手のひらに乗せた。
「ありがとうございまーす♡こちらのご主人様は、写真は大丈夫ですか?」
「…わかったよ…」
ニノも、しぶしぶながら200円を出してきたから。
俺はとびっきりの笑顔で二人の間に収まり、かざされたスマホに向かってピースしてやった。
「じゃあ、コーラ2つ」
「かしこまりました。少々お待ちください、ご主人様♡」
メニューを回収し、教室の角に設置してあるドリンクコーナーへと戻る。
「コーラ2つ」
メイドからウェイターの格好に着替えさせた櫻井に、そう告げると。
なんだか情けない顔で、俺を見た。
「…ごめん、松本」
「なにが?」
「…友だちなんだろ?あの人たち」
チラッと大宮コンビへと視線を流すから。
俺は手を伸ばして、その髪をくしゃっとかき混ぜた。
「気にすんなって。それより、コーラくれよ」