第3章 Kissから始めよう
「松本、これそっちに運んで」
「…なんで、俺だけこき使われてんの…」
「おまえがなんでもやるって言ったんだろ」
その日は1日文化祭の準備で。
俺はずっと櫻井にくっついて、重いもの運ばされたりと重労働を強いられていた。
『は?嫌だよ!なんで俺が知念の代役なんだよ!』
『クラス委員なんだから、当然じゃね?』
『はぁぁ!?』
『翔ちゃんのメイド、きっとかわいいよぉ~♡』
『やだよっ!』
『俺もちゃんと手伝うからさ、櫻井は当日のメインの方に回れよ』
『…ホントにちゃんと手伝うんだな?松本』
『うんうん!ちゃんとやるからっ!』
…あんなこと、言うんじゃなかった…
「なぁ…ちょっとだけ、持ってくんね?」
思わず、ペットボトルが大量に入った段ボールを床に置くと。
手ぶらの櫻井は、腕組みをしてジトッと俺を睨む。
「なんでもやるんじゃなかったのかよ?それに、メインのメイドが怪我したら大変だろうが」
「…はい、すみません」
「わかったら、さっさとそこに積んで。あと、まだ15箱あるから」
「うえっ!?そんなに!?」
「喫茶店なんだから、あたりまえだろ」
まるでお尻をベシベシ叩かれながら働かされる馬になったみたいに、櫻井にお尻をベシベシ叩かれ。
一階の昇降口から四階の教室まで、15往復もさせられて。
「っし!これで最後っと!」
最後の段ボールを積み終わった瞬間、その場に座り込んでしまった。
「うーわ…膝が笑ってるわ…」
高校入ってから部活もやってなかったから、久々の重労働に膝がガクガク震えてる。
「くっそ…あいつ、どこ行ったんだよ…」
教室には櫻井どころか、もう誰の姿もなくて。
がらんとしてる教室は、普段と違ってどこか寂しく見えて。
不意に、昨日の櫻井の姿を思い出した。
あいつ…
昨日、たった一人で作業してたよな…
みんな適当な言い訳つけて、サボろうサボろうってしてんのに
あいつだけくそ真面目に、一人で頑張ってて…
なんか、悪いことしたな…