第3章 Kissから始めよう
【潤side】
「うがーーーーっ!」
学校から家まで、全速力で自転車を漕いだ。
途中、俺の雄叫びにびっくりした人が何事かと振り向いたけど、人目なんて気にしていられなかった。
だってさ…
だってさ、だってさ…!
俺…
キス、しちゃったよ…
しかも
よりによって一番苦手なあいつとっ!!!
「くそーっ!なんて日だっ!!!」
乗り捨てる勢いで、自転車を家の前に置いて。
玄関から真っ直ぐに二階の自分の部屋を目指して、階段を駆け上がる。
「ちょっと潤!?帰ったの!?ごはんは!?」
「今、いらねぇっ!」
途中、姉ちゃんの声が追いかけてきたけど、それを振り切って。
ドアを閉め、鍵を掛けて。
制服のポケットから取り出したスマホの、着信履歴の一番上に電話をかけた。
『なんだよー、俺今デート中…』
「智、どうしようっ!?俺、キスしちまった!!」
『…は?』
なかなか出ないだろうと思ったのに、案外あっさり応答した智は、唐突な俺の言葉に訝しげな声をあげる。
『…誰と?』
「…櫻井、と…」
『櫻井?誰?』
「だから!くそ真面目なうちのクラス委員だよっ!」
『え?…あ、あーっ!さっきのかわいこちゃんね!…って!は?キス!?なんで!?なんでいきなりそんな急展開!?』
「いや、急展開っていうか…不慮の事故っていうか…」
『事故!?どんな事故!?』
「それがさ…」
事細かに説明しようとしたとき。
『ちょっと智。かわいこちゃんって、誰?』
電話の向こうから、聞き覚えのない高い声が聞こえてきた。
『え?あ、いや、それは…』
『んもうっ!今は私だけ見ててよっ!』
『えっ、ちょっ…』
言い争いの後に、ぼふんって音が聞こえてきて。
直後、リップ音が…。
『ん…あんっ…』
色っぽい声が鼓膜を刺激して。
俺は慌てて通話を終わらせた。
くっそーっ!
智のやつ、自分ばっかり楽しみやがって!
こっちは男と…
しかもいっちばん苦手なやつと
キスしちゃったっていうのにっ!!!