第3章 Kissから始めよう
「ま、いっか……変なやつ…」
倒れた脚立を起こして、こぼれた赤い絵の具を何とか綺麗に拭き取った。
「今日はもう帰ろっかな…」
ロッカーからリュックを出して背負って、教室を後にした。
「腹へったな〜。なんか食って帰ろ〜」
駅の近くのマックに寄った俺は、
「ハッピーセット、チーズバーガーで、コーラを…」
そう注文すると、店員の女の子は一瞬目を丸くしたけど、笑顔でレジを打ってくれた。
……だって、ドラえもんの…欲しいんだもん。
店の隅に座って、チーズバーガーを頬張った。
「あ…うんまっ♪」
食べ始めると、猛烈に腹が減っていたことに気付いた。
「ナゲットも追加すればよかった〜」
それでも一通り食べ終えて、満足した俺はペーパーで口を拭った。
その時、あの瞬間を思い出した。
教室で、松本と……
俺……あいつと、キスしちゃったんだ。
…………初めてだったのにな…
指でそっと唇をなぞると、まだあの感触がそこに残っているようだった。
……嫌だったんだろうな、あいつは。
怒ってたもんな…
……………
まあ、何とも思ってないか!どうせ松本は、俺と違って何度もしてるんだろうし…
「どうってことないか〜…」
そう独り言を言った俺は、トレイをもって立ち上がった。
今まで彼女と呼べるような人もいなかったし、当然キスもしたことなかった。
『好き』
『つきあって』
そう言われたことは何度もあったけど、なんかピンと来なくって…
むしろ、回りのみんなが、どうしてあんなに簡単に付き合ったり別れたりできるのか、理解できなかった。
付き合うなら、本当に好きになった人と……
雅紀とかに話すと絶対にバカにされるから、そんな俺の思いは、誰にも話したことはなかった。
まあ、17歳にもなって、恋愛経験ゼロって言うのも、どうかとは思っているんだけどね。