第3章 Kissから始めよう
「この後、どうするよ?」
櫻井のメイド姿は早々に放棄して、智に訊ねると。
「あ、俺これからデートだから」
あっさりと振られた。
「は!?おまえ、いつ彼女出来たの!?」
「先週」
「マジか…」
「聞いて驚くなよ?8個上」
「マジかっ!?社会人じゃん!」
「おう」
「智、すげー…」
「ふっふっふっ…すげーだろ?」
「お、おう…もしかして、アッチの方も、すげーの…?」
「そりゃあまぁ…大人の色気ってやつ?駄々漏れ♪」
「ま、マジか…」
やべ…
俺、そっちの想像の方が勃っちゃうんですけど…
「今度、お友だちを紹介してもらえる…?」
「いいよ~。クラス委員君を、メイドにしてくれたら」
「はぁ!?交換条件、それかよ!」
「うん。だって、可愛い子に『ご主人様♡』って言ってもらいたいもん」
「彼女に言ってもらえよ!」
「それはそれ、これはこれだろ。あ、仕事終わったみたい。じゃ、行くわ。またな」
ピロリン、と軽快な通知音が鳴ったスマホを確認すると、智は素早く立ち上がり。
ヒラヒラと手を振り、俺を置き去りにしてさっさと出ていってしまった。
「なんだよ…つまんねーの…」
久しぶりに、智と思いっきり遊ぼうと思ったのに…
誰か他に遊んでくれる奴はいないかと、スマホを取り出して。
不意に、櫻井の顔が浮かんだ。
『くりくりの目が可愛い』
『ぷるぷるの唇が美味しそう』
さっきの智の言葉が、何度も頭んなかでこだまする。
あいつ…そんな顔、してたっけ…?
智に見せた写真を、もう一度マジマジと見てみるけど。
ピントがあってないから、ぼんやりしててよくわかんない。
けど…
智の彼女って、いつもめちゃ美人だよな…
自分でも面食いって言ってたし…
その智が可愛いって連呼するんだから
ホントなのかな…?
考え始めると、櫻井がどんな顔してたのか、気になって仕方なくなってきて。
時計を確認すると、19時過ぎ。
あいつ…まだいるかな…?
俺はスマホをジャケットのポケットにねじ込むと。
まだ食べかけのポテトを持って、立ち上がった。