第3章 Kissから始めよう
「あったかな…」
スクロールしても、出てくるのは先月別れた彼女との写真ばかり。
もう半年も前から二股掛けてたらしいムカつく顔に、苦々しいものが込み上げてくる。
「う~わ…おまえ、まだそんな写真残してんの?」
「うるさいな…」
「つか、おまえこれ、ハメ撮りっ…!」
「だぁーっ!見んな、バカっ!」
覗き込んできた智に、ヤバイ写真まで見られて。
慌てて削除したけど、智はひどくいやらしい顔でニヤリと微笑んだ。
「ふーん…潤って、そんな趣味あったんだ…」
「だ、誰にも言うなよっ!」
「言わねぇわ。誰に言うんだよ」
楽しそうに目を細めながら澄ました顔でコーラを一口飲んだ智を、ジロッと睨んで。
俺はまたスクロールを再開する。
「えっと…この辺かな…」
ようやく、クラスの奴らの写真が出てきて。
もちろん、仲良くもない櫻井がそこにカメラ目線で写ってるわけないんだけど。
教室で撮ったのの後ろにでも写りこんでないかと、目を皿のようにして探すと、ようやく端っこに横顔が写っているのを見つけた。
「あった、これ。つっても、よくわかんねぇぞ?」
櫻井が写ってる部分を拡大して、スマホごと渡すと。
智はストローを咥えたまま、じーっとそれを覗き込んで。
「おお…すげー美人じゃん♪」
弾んだ声で、そう言った。
「…は?」
「この、くりくりした目、チョーかわいい」
「はぁぁ!?」
「このぷるぷるしてる唇も美味しそうだし…こいつ、絶対女装させたら可愛いって!よし、決めた!おまえのとこの文化祭、俺遊びに行くわ!だから、こいつにメイド、絶対やらせろ!」
「はぁぁっ!?やだよっ!」
「なんでだよ~。真面目なクラス委員君は、なんでもやってくれるんだろ~?」
「だからって、なんで俺が…!」
「真面目くんなら、きっと恥ずかしそうにしながら『いらっしゃいませ、ご主人様♡』なーんて言ってくれるんだろうなぁ…あ、やべ。想像したらちょっと勃っちった」
「はぁ~!?おまえ、まさか…男でもイケるの…?」
「いや、試したことはないけどさ…こいつなら、イケそう♡」
「…マジか…」
櫻井のメイド姿を想像してニヤニヤしてる智を若干恐ろしく思いながら、俺もそれを想像してみようとしたけど。
俺の頭んなかには、全くなんにも浮かんでこなかった。