第3章 Kissから始めよう
「あ~、だりぃ…」
いつものファーストフード店で、呼び出した智と落ち合った。
「おまえさ…最近、いつも暇そうだな」
智はポテトをむしゃむしゃと頬張りながら、どこか呆れたような眼差しで、テーブルに突っ伏した俺を見下ろしている。
「うん、暇。くっそ…あん時早まって、別れ話するんじゃなかった」
「…浮気されたのに、許せんのか?」
「う…」
「おまえんとこの学校、もうすぐ文化祭だろ?暇なら、そういうのに力入れてみたら?」
「だって、ダルいじゃん。俺の代わりに、クッソ真面目なクラス委員様がやってくれるって言うし」
「ふぅん…おまえのクラス、なにやんの?」
「…メイド喫茶」
ぼそっと答えると、それまでひたすらにポテトを口に運んでいた智の手が止まって。
ぶふぉっと音を立てて、吹き出した。
口から飛び出たポテトの欠片が降ってきて、慌てて体を起こす。
「おい、飛んできたぞっ!」
「ごめんごめんっ」
「ったく…汚ねぇなっ!」
「メイド喫茶って…おまえんとこ男子校だろ?じゃあ、あれか?おまえ、女装して『いらっしゃいませ、ご主人様♡』とか、やるわけ?」
制服に付いたポテトのカスを払ってると、智は全然悪びれた様子もなく、けたけたと楽しそうに笑った。
「やるかよっ!」
「え?なんでよ。やろうよ。絶対、潤子ちゃん美人だって!…濃いけど」
「濃いは余計だわ!つか、ぜってーやんねぇし!」
「えー、残念…おまえが女装すんなら、中学の奴ら引き連れて遊びに行こうと思ったのになぁ…」
「来んなよ!つか、そういうのは全部、クラス委員様がやってくれんだろ」
「ふぅん…」
智は興味なさそうに相槌を打って、またポテトを口に入れたけど。
「…なぁ、そのクラス委員ってやつ、美人?」
不意に手を止めて、ニヤリと笑う。
「は?美人ってなんだよ。男だぞ?」
「男でもいるだろ。美人」
「はぁー!?そんな奴、いるか?」
「写真ねえの?写真」
「あるわけねぇだろ!なんで俺があいつと写真なんか撮るんだよ!」
「横顔でもいいからさ!チラッとでも見られれば、美人かどうかわかる!」
基本いつもドライな反応の智が、こんなに食い付いてくるのは珍しくて。
俺はしぶしぶ、スマホのアプリをタップした。