第1章 協奏曲 ─concerto─
「な、何??」
俺も俺で、動揺することも無いのにさ。
智くんがあまりにも『しっぽ掴んでやった』的なオーラ出してるからかな?
俺は何も悪い事なんかしてないのに、
浮気現場を押さえられた亭主のように、挙動不審になってしまう。
「何って?用がなきゃ来ちゃダメなの?」
「いや、だって、仕事中だし…」
「もう12時回ったんだけど~?あれ~?営業とうちんとこじゃ、時差があんのかな~?」
「時差って…」
ヤバい空気を感じ取ったのか、浜辺さんは、
「では課長、私は失礼します。」
「あ、お疲れ様~」
何でお前が言うんだよ///
そそくさと遠ざかる浜辺さんの背中に、手を振っていたかと思ったら、急に振り返った智くんは、能面のような顔で、
「お邪魔だったかな、俺」
と言った。
「そ、そんなことないよ!飯行こうか?
そう言えば腹減ったよな~」
「それ…貰ったの?あの娘に」
さらりと、不自然じゃない様にデスクの隅に置いたのに、智くんはしっかりと紙袋にロックオンしてる。
「…えっと、何だろうな~?」
智くんは能面のまま、ジロリと俺を見たけど、それ以上その件は突っ込んではこないで、
「社食、行くよ!LINEしても既読になんないから来てみたんだけどね~」
「あ…ごめん…」
「別に。いいけど…忙しかったみたいだし~」
「……」
俺はそのまま、智くんの後について社食に向かった。
今日は折角の記念日なのに…
なんだか出だしっから躓いた感は否めないけど…
彼に喜んでもらいたくて計画した今夜のプラン。
楽しい夜にしたいじゃん!
だったら、こんなの不本意だから…
「Aランチ、じゃんけんで負けた方が奢りな♪」
そう言ってガッツリ肩を組んだら、智くんの頬が少し緩んだの、ちゃんと確認した。