第2章 不言色 ―いわぬいろ―
そのままチェックアウトの時間まで、ニノはずっと俺にくっついてくれてて。
離れたくないって言われてるみたいで、なんかすっごい幸せだった。
だから。
「これ」
「…いらない」
ニノが差し出してきた数枚の諭吉を、押し返した。
「え…」
一瞬にして、その仔犬みたいな瞳に傷付いた色が広がる。
「なん、で…?」
ひとり取り残されたような、不安げな瞳。
もう二度と
そんな目を見たくないから
「だって…俺、昨日はお客さんとして、君を抱いていないから」
「…え…?」
「俺の…好きな人として、抱いたから」
ゆらゆらと揺れてた瞳が、大きく見開かれる。
「え…え!?」
ひどく動揺してる様子に、ちょっと心が折れそうになるけど。
でも欲しいんだ
俺の隙間を埋めてくれる
愛おしい君が
「ニノのことが…好きだよ」
真っ直ぐに、君の心に届くようにと、思いの丈をいっぱい込めたら。
みるみるうちに、その瞳いっぱいに涙が溜まって。
ぽろりと一粒、溢れ落ちた。
それはまるで
この世にたったひとつしかない
キラキラ光るダイヤモンドのよう
「俺たち、まだお互いのことなんにも知らないけどさ…俺、もっとニノと一緒にいたいって思ってるし、ニノのこと、もっと知りたいと思ってるよ」
「でも…でも、俺は…」
「それとも…俺じゃ、嫌かな?」
ボロボロと涙を溢しながら、それでも苦しそうになにかを言おうとするのを、わざと遮った。
ニノは、ぎゅっと口を引き結んで。
ふるふると、首を横に振る。
「ううん…嫌じゃ、ない…」
「ホント…?」
「うん…俺も…雅紀と、もっと一緒にいたいよ…」
震える唇で。
それでも、はっきりとそう言ってくれて。
また
じわっと温かいものが身体を満たしていく
「ニノ…俺と、付き合ってもらえませんか…?」