第2章 不言色 ―いわぬいろ―
そのまま、ホテルへ向かおうとして。
はたと、気付いた。
そういや、俺
この間ババ抜きとか言ったっけ…?
エッチするかしないのかわかんないけど
しないんだったら、なんかそういう気分転換になりそうなもの、買っていった方がいいのかな?
家に帰ればトランプくらいはあるけど、そんな時間ないし。
思案しながらホテルの最寄り駅を降りると、俺の目に飛び込んできたのは駅前にあった激安の殿堂のお店。
約束の時間ギリギリだったけど、店に飛び込んで。
トランプと、そのすぐ隣にあったUNOも手にとって。
それを抱え、ニノの元へと走った。
「…遅い」
10分遅れで部屋をノックした俺を、ニノは頬を膨らませて出迎えた。
「ごめんごめんっ!ちょっと買い物してて…」
「ふーん…俺に会うより大事な買い物なんだ」
拗ねてます!って顔全体に書いて俺を見つめる瞳が、やっぱり仔犬みたいで可愛くて。
思わず手を伸ばして、ぎゅーっと抱き締めた。
「ちょっ…いきなりなにっ…」
「好きだよ、ニノ」
腕から逃れようと暴れるから、耳元で低い声で囁いてやると。
びくんっと震えて、おとなしくなる。
「…ありがと…」
「ん?なんで、お礼?」
「…なんとなく」
素っ気ない言い方は、照れ隠しだってバレバレで。
おずおずと、背中に腕が回ってきた。
それだけで
あったかいものが俺の身体を満たしてく
しっかり抱き直して、その漆黒の髪に鼻を埋めると、シャンプーの香りがする。
もしかして、準備してくれてたのかな…?
そういうとこ、ホント可愛い♡
今日は、いっぱいサービスしてあげちゃうぞっ!
「俺も、シャワー浴びてきてもいい?バイトで汗かいちゃったから」
とりあえずこの汗臭いのをなんとかしようと、縋るようにしがみついてる背中をポンポンと叩くと。
名残惜しそうに離れていく。
「…どうぞ」
くるりと背を向けた横顔は、耳まで真っ赤になってて。
「すぐ!すぐ上がるからっ!待っててねっ!」
早く、もう一度抱き締めてあげたくて。
俺は駆け足で、バスルームへと向かった。