第2章 不言色 ―いわぬいろ―
「それじゃ、お疲れさまで~す」
「あ、相葉。ちょっと」
バイトが終わり。
ニノが待ってるからと、さっさと上がろうとした俺を、松岡さんが引き留めた。
「なんっすか?」
たぶん、思いっきり迷惑そうな顔をしただろうけど。
松岡さんは苦笑いしながら近付いてきて、俺の手に封筒を握らせる。
「これ…ボーナスだ。とっとけ」
「へっ…?」
「おまえ、最近頑張ってくれてるからさ」
「え、で、でも…他のスタッフにはないんでしょ?受け取れないよ」
「いいから」
「いや、でもさっ…」
突き返したら、松岡さんは強引に俺のジーンズのポケットにそれを突っ込んだ。
「…裕くんに、これで甘いもんでも買ってやれよ」
「…っ…」
「たったこれっぽっちじゃ、なんの足しにもならないかもしれないけど…俺は、いつだっておまえらを助けたいと思ってんだぜ?」
「松岡さん…」
松岡さんの目が、優しく細められて。
「だから…あんま、一人で無理すんな。な?」
子どもをあやすみたいに、頭をポンポンされて。
不覚にも、涙が出そうになった。
「うん…ありがとう…」
「これから、バイトか?」
「うん」
「無理すんなよ?ヤバくなったら、いつでも電話してこい。すっ飛んでくから」
「うんっ」
鼻の奥がつんとしたけど、なんとかギリギリ涙を堪えて。
笑顔を作ると、松岡さんの大きな手が髪の毛をぐしゃぐしゃっとかき混ぜる。
「わあっ、もう、なにすんだよーっ!」
「ハハハッ…じゃあ、気を付けて帰れよ~」
「子どもじゃないしっ!」
豪快な笑い声に見送られて。
店を後にした。
急いでスマホを開くと、ショートメールが5件。
古いのから開いていくと、今日の仕事の依頼ばかりで。
最後のを開き、ようやく目的のものが見つかった。
『617』
素っ気なく部屋番号だけ書かれたそれに、心のなかがじんわりと熱くなって。
俺は残りの4件に断りのメッセを送ると、ニノへと返信を打った。
『これからいくねっ!』