第2章 不言色 ―いわぬいろ―
【雅紀side】
あれから、ずーっと気になってた。
バイトしてるときも。
夜のお客さんを抱いてる時も。
抱かれてる時も。
いつも、頭の片隅にニノの顔があって。
また泣いてるんじゃないかな?
子どもみたいに震えてるんじゃないかな?
って…
泣いてたら、また抱き締めてあげたかったけど。
俺、ニノの連絡先知らないから、向こうから電話してこない限り会えないし。
だから、スマホが手放せなくて。
風呂の中まで持ってっちゃったりして。
今までたくさんの人に知り合ってきたけど、こんな風に引き摺るなんてこと、なかったから。
自分でも、そんな自分にびっくりしてんだけどさ…。
でも、何日経っても連絡来ないから、もう会えないのかな…って悲しくなってた時。
目の前を横切っていった、姿。
会いた過ぎて、幻でも見たのか!?って、ほっぺたつねってみても、ニノは消えなくて。
慌てて追いかけた。
大声で名前を呼ぶと、ものすごい勢いで振り向いてくれて。
恥ずかしそうにしながらも、俺を待っててくれた。
もっとゆっくり話したかったんたけど、バイトの時間ギリギリだったし。
『また…会えるかな?』
そう訊ねたとき。
泣きそうに歪んだ顔。
ここが外だってことも忘れて、抱き締めたくなって。
慌てて拳を握って堪えなきゃなんなかった。
そんな顔しないで…?
君の心のなかにポッカリ空いた隙間を
どうか俺に埋めさせて…
名刺に書いてある煽り文句を、こんなにも強く、本気で思ったのは初めてだったんだ。
だから、強引に会う約束を取り付けて。
「じゃ~ね、じゃ~またね!!」
駅へ向かう背中を何度も振り返りながら、何度も手を振った。
見えなくなるまで、手を振って。
その手を、胸の前でぎゅっと握る。
心臓…ドキドキしてる…
これってさ…やっぱり…
でも…
俺は…