第2章 不言色 ―いわぬいろ―
すっかり着替えた相葉さんは、
「じゃ、ごめんね、もう行くわ」
リュックを背負いながらそう言った。
「ランチ…行くから…ルーチェ…」
すると、
「待ってる!」
相葉さんは顔をくしゃくしゃにして笑った。
彼が出ていった後は、耳が痛くなるほどの静寂が訪れた。
ベッドを抜け出した俺は、音を求めて急いでリモコンを操作すると、流れてきたのは穏やかな音楽にのせた、ホテルのPR動画だった。
…………
バスローブを羽織り部屋のカーテンを開けると、眩いばかりの朝の光が俺を包んだ。
……相葉 雅紀……
不思議な人だったな…
今まで出会った誰とも違う。
…Luce………光…
ホントに、春の優しい光のような、そんな人だった。
翔への思いは、胸の奥にずっと刺さったまま疼いているけど…
彼に……相葉さんにまた会いたい
そう思う気持ちが芽生えた自分が、なんだか擽ったかった。
一夜だけの温もりでいい、
そう思って彼を呼んだんだけど…
結局無理だった。
……翔…
彼女の肩を抱いてエスコートしながら、
なんであんな悲しそうな顔をしたんだよ…
いっそのこと、俺のことなんか、振り向きもしないで、
汚いものでも見る様な目で見てくれた方が…
そしたら、俺…
………そしたら俺は、どうしてたんだろう…?
簡単に抵抗も無く、相葉さんに抱かれていたんだろうか?
……いや、違うな…
だって、翔があんな顔するから…
だから俺…
相葉さんを呼んだんだもん。
「はあ~、未練たらしいよな、俺も…」
そう自嘲気味に笑う俺の涙は、もう乾いていた。