第1章 協奏曲 ─concerto─
他愛もない話をしながら朝ごはんを食べ終わると、結構ギリギリな時間で。
食器は流しに置いておくだけにして、俺は冷凍庫を開けた。
「う~ん…」
「どうしたの?遅れるよ?」
今日の夜ご飯はなににしようかと、買い溜めしておいた冷凍の魚や肉とにらめっこしてると。
ネクタイを締めながら、翔くんがひょこっとキッチンに顔を出す。
途端、その手元に俺の視線は吸い寄せられた。
実は
翔くんがネクタイ結んでるのを見るの
すっごい好きなんだよね
こういうのも
細やかな幸せってやつ?
「智くん?どうかした?」
「あ、ううん、なんでもない」
ぼーっと見てる間に、するするっとネクタイは結び終わって。
我に返った俺は、慌てて首を横に振った。
「夕飯、なんにしようかと思ってさ…なにがいい?」
「あー…」
翔くんは呟いて、気不味そうに視線を逸らした。
「ん?なに?どしたの?」
「いや…今日はいいよ、作んなくて」
「え?」
「外で食べるから」
「そうなの?」
「実はさ…一周年、覚えてないだろうと思って、サプライズ、用意してたんだよね…」
「えっ、マジで!?」
ボソボソと呟かれた言葉に、思わず飛び上がって。
そのままぎゅーっと翔くんに抱きついた。
「ありがとーっ!嬉しいっ!」
「って、まだなにかわかんないでしょ」
「じゃあ、なに?」
「それ言ったら、サプライズにならないじゃん」
翔くんは呆れたように、笑って。
でも、俺より強い力で抱き締め返してくれた。
「今日は、残業すんなよ?定時であがることっ!」
「俺はいつもだいたい定時だよ~。それ言ったら、翔くんのが危ないじゃん!」
「今日は大丈夫。死ぬ気であがるよ。終わったら、連絡する」
「うん。待ってるね♡」
語尾に♡を付けて返事すると、ゆっくり翔くんの顔が近付いてきて。
そっと目蓋を降ろすと、甘い唇が重なった。