第1章 協奏曲 ─concerto─
「うわ…どうしたの?これ。今日はずいぶん朝から豪華じゃん」
のろのろとリビングへ戻ると、翔くんはさっきのドSっぷりはキレイに隠して、ダイニングテーブルにもう座ってた。
「そう?」
「そうだよ。いつもはご飯とインスタント味噌汁なのに」
ちゃんと気付いてくれたのが嬉しくて。
俺も慌てて翔くんの向かい側に座った。
「だってさ…今日って、俺たちが一緒に暮らし始めて1年目の記念日じゃん?」
俺の答えに、翔くんはこれ以上ないってくらい、目を真ん丸にする。
「…覚えてたの?」
「うん。もちろん」
「絶対、覚えてないと思ってたわ…」
「ええーっ!ヒドいっ!」
「だってあなた、そういうの無頓着じゃん」
「そんなことないよー。翔くんの誕生日だって、入社してからずーっと欠かさず、日付が変わった瞬間におめでとうってメッセージ送ってたでしょ?」
「あ…確かに…」
そう言うと、なぜか頬を薄らと赤く染めた。
「…実はあれ、すっげー嬉しかった…」
「え?そうなの?だってさぁ、返事素っ気なかったから、そんなに嬉しくないのかと思ってた」
「そんなわけないじゃん!言ったろ?俺、智くんに一目惚れだったって!」
「そんなの、俺だってそうだよっ!」
あの入社式に向かう駅で初めて会ったとき
一瞬でドーンと恋に落ちたんだからっ!
「…へへっ…」
「ふふっ…」
そこまで言って、突然照れ臭くなっちゃって。
笑って誤魔化したら、翔くんも照れ臭そうに笑って。
「食べよっか?」
「うん」
なんだか甘~い空気の中、2人で手を合わせる。
「いただきま~す」
「いただきます」
キラキラ輝く朝の光の中で
君と二人っきりで囲む食卓
そんな些細なことが
とっても幸せだなぁと思う
「ぬか漬け、うんまっ!」
「ふふっ…母ちゃんの自信作なんだっ」
「おお~、今度お礼言わないとな」