第2章 不言色 ―いわぬいろ―
「久しぶりじゃない、カズ…生きてたんだ♪」
「まぁね…ママは、変わらないね」
「あらぁ、嬉しいこと言ってくれるじゃない♪」
隣に座ってくれたのはこの店のママ。
その世界じゃ有名人だ。
時々深夜のテレビにも出たりしてるし。
「カズがここに来てるってことは〜…」
「………」
「聞かない方がいいかしら?」
「…いいんだ…」
俺は、誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。
10年に渡る恋の顛末を、ママに話した。
ママは、頷きながら、聞いてくれた。
長い長い、俺の未練話を……
「そうだったのね…」
「もうなんかさ、心にぽっかり穴が開いた、っていうの?そんな感じでさ〜」
「まあ、長きゃ長いほど、後引くわよね…」
「そうなのよ…」
カウンターに項垂れる俺の背中を、大きな手で撫でてくれていたママは、徐にキラキラのポーチの中から、一枚の名刺を取り出した。
「でも、寂しいから、ここに来た…でしょ?」
「……ママ…」
「これ、あげる。悪い子じゃないと思うわよ」
『レンタル・ボーイ
相葉 雅紀
―心の隙間、お埋めします―
℡:080-30××-××55』
薄緑色の名刺には、そう書いてあった。
レンタル・ボーイ…?
心の隙間…って、
喪黒福造かよっ!
心の中で突っ込んだ俺に、
「ママがいいと思う人にだけ渡してって。そう言われてるのよ。
試しに電話してみれば?」
レンタル……って…
戸惑い顔の俺に、
「もちろん、夜のお相手もしてくれるわよ♥️」
ママはそう言ってウインクした。
その顎には、消しても消えない髭の剃りあとが
青く浮き出ていた。
マンションに帰り着いた俺は、へんてこな名刺をもう一度見た。
「…間に合ってまぁ〜す…ってか?」
そう笑って棚の上に置いて、
そのままシャワーに向かった。
ママはああ言ったけど、怪しいヤツには近づかないに限る…
そう思ったんだ。
そして、その事は忘れていた。
それなのに………