第2章 不言色 ―いわぬいろ―
【ニノside】
ここに来るのは、何年ぶりだろう…
また、ここに来ることになるなんて…
「…覚えてるもんだな…」
新宿の裏路地を迷路のように複雑に入ったその奥に、店はあった。
もう来ることはないと
思っていた…
なのに。
「いらっしゃいませ」
新宿二丁目、意図的に人目を避けたようなそのバーは、熱気で溢れていた。
ビートの聞いた煩い音楽、
下卑た笑い声に、
下品な言葉が飛び交う店内…
飲み物を受け取った俺は、少しだけの緊張を連れてカウンターの一番奥に座った。
…知った顔はない……
そりゃそうだよな。
俺が通ってたのは10年近く前のことだ。
「何飲んでるの〜?」
「………」
気安く肩に手を置いて話しかけてきた男は、値踏みするような無遠慮な視線を絡み付けてくる。
「…別に…」
「何かさ、アイドルの誰かに似てるって言われない?」
「…言われたことない」
「えー、そう?まあいいか」
「……」
「この後、一緒に行かない?」
来た。
でも……
「行かない…」
「何で?いいじゃん」
「…やだ…」
「つっ///何だよ…すかしやがって」
露骨な舌打ちをして、そいつは俺の横から居なくなった。
そんなやり取りを、何度かした。
仕舞いには、
「てめー、何様だよ!ここに何しに来てんだよ?」
「お酒飲みに」
「天国連れてってやるから!」
「止めてよ!」
強引に手首を捕まれてキスされた。
「やだっ!止めろ!」
「しんちゃん、よしなさい!」
不意に後ろから男の肩を掴んだのは、
「…ママ…」
「嫌がってるのを無理やりすんのは、ルール違反よ…」
「チッ///」
しんちゃんと呼ばれたそいつは、ばつが悪そうに居なくなった。