第1章 協奏曲 ─concerto─
「私、櫻井課長が好きです」
次に降ってきた爆弾発言に、体がびきっと音を立てて固まった。
「あ、いえ、そういう意味じゃなくてっ!その…尊敬してるって意味です!」
俺の様子に気付いた浜辺さんは、慌てて両手を左右に振る。
「仕事出来るし、優しいし、こんな新人の私にも気を使ってくれるし…初めての上司が櫻井課長だなんて、ホントに恵まれてるって思います」
そりゃあね
俺の翔ちゃんはスーパーマンだから!
「…正直に、言っちゃってもいいですか?」
「なにを?」
「私…一瞬だけ、櫻井課長のこと、好きでした」
「え…」
「でも、しばらく見てたら…わかっちゃったんですよね。櫻井課長が、誰を見てるのか」
浜辺さんは、ずっと笑顔で話し続ける。
眩しいくらいに。
「課長、自分では気付いてないと思いますけど…昼休み前になると、ちょっとソワソワしてるんです」
「え?そうなの!?」
「はい。それが、大野さんが現れた途端、すごく嬉しそうな顔になって…って、まぁこれは、ずーっと見てた私にしかわかんない変化だと思いますけど」
そうなんだ…
翔ちゃん
やっぱすげー可愛いやつっ♡
「大野さんといるときの課長、すごくいい顔してるから…そんなの見てたら、玉砕決定の恋なんてしたくないじゃないですか~」
清々しい顔でそう言って、浜辺さんは声を立てて笑った。
それを見てると、なんかちょっと申し訳なくなっちゃった。
「なんか…ごめんね」
「どうして謝るんですか。あ、心配しなくても、誰にも言いませんから!」
うんと年上の俺にも、そんな気を使ってくれて。
「今度、マカロンを作ってみようと思ってるんです。また食べていただけますか?」
「うん、もちろん!でも、いいの?俺も食べても」
「はい!…課長には言えないですけど、実は彼氏に食べさせる前の毒味をしてもらってるんです。だから、マズイときはマズイって言ってもらえると助かります」
「ふふふっ…りょーかいっ」
茶目っ気たっぷりに、冗談ともつかない言葉で和ませてくれて。
ほんと、いい子だな
今まで心んなかでいろいろ文句言ってて、ごめんね
そう、心のなかで謝りつつ。
俺は昼休みが終わるギリギリまで、彼女と楽しいランチを過ごした。