第1章 協奏曲 ─concerto─
「あ~あ、翔ちゃん、玉子ついてるよ~」
「えっ?ホント?」
「ほら…ここ♪」
全くもう~、イケメンが台無しじゃん!とか言いながら、指を伸ばして、俺の口元を撫でた智くん…
その指をそのまま口に入れ、
「んふふふ…おいち♡」
と笑った。
「……」
なんだよその顔…天使過ぎる…
優しい午後の日差しが熱いせいじゃない…
俺は頬が熱くなるのをカフェオレカップを煽って誤魔化した。
その時。
「ねえ…あれ…」
智くんが急に能面のように表情を消して、俺の背後を指差した。
あれっ?…あれって…
彼の指さす方を振り返ると、キッチンのカウンターに、昨日浜辺さんからもらった包みが…
あ~、そっか…
中身なんだっけ?確か……
「パウンドケーキ、食べればいいじゃん」
あ、そうそう!パウンドケーキ…
…って、よく覚えてるな~
感心しつつ智くんを見ると、さっきの能面はどこへやら?口を尖らせてて…
その顔には『面白くない』と、はっきり書いていあった…
まあ、いつものヤキモチだからね…
俺は素知らぬ振りして、その紙袋を持ってくると、中から可愛い袋に入ったそれを2つ取り出した。
「へぇ~、旨そうじゃん!」
(……無言の重圧…)
「あ、つう~か、まあ、普通だな…ほら一緒に食べようよ!はい、これ智くんの分♪」
嫉妬の眼差しは無視して、包まれた1つを智くんに差し出した。
「…いらない…」
(でたでた)
「何で~?まだ食べられるだろ~?」
「…お腹いっぱいだし…それに…」
それに??
気マズそうに目を伏せた智くんは、
「だって、櫻井課長に食べて欲しくて作ったんだよ~!あの子…たくさん作ったから~、何てさ、白々しい言い訳しちゃってさ~
正直に言えばいいんだよ!
『櫻井課長のために作りました』ってさ~」
珍しく、饒舌ですこと…