第1章 協奏曲 ─concerto─
「ふぁ~…」
また汚れちゃった身体を、お互いに洗いっこして。
二人でお風呂に浸かった。
「ぷっ…それ、おじさんみたい」
無意識にこぼれちゃった声を、翔ちゃんが笑って。
後ろからぎゅっと抱き締めてくる。
「しょーがないじゃん!もう、あんま若くないし」
筋肉のついた逞しい胸に背中を預けながら、唇を尖らせると。
笑いながら、その先に軽いキスをくれた。
「若くないって…まだアラサーでしょ」
「でも、新人さんたちから見たら、おじさんじゃん。ほら…翔ちゃんとこの、マドンナみたいにさ」
「マドンナって…ああ、浜辺さんね。まぁ、あのくらいの子達からすれば、おじさんなのかなぁ?」
そう言って笑った翔ちゃんの瞳は、とっても優しくって。
ツキンと、胸の奥が小さな音を立てた。
「ねぇ…あの時、なに考えてたの?」
「あの時って?」
「…ベッドでエッチしたとき。なんか、違うこと考えてたでしょ?」
もしかして、あの子のこと、考えてたんじゃないの…?
とは、さすがに口にできなかったけど。
翔ちゃんは、俺の顔をじっと見つめて。
それから、俺を抱き締める腕にぎゅーっと力を入れた。
「ちょっ…苦しっ…」
「ばーか。智くんと付き合いだした頃のこと、思い出してたの。他の人のことなんて、考えてないよ」
俺の考えてることなんてお見通しだよ、とばかりに、笑いながら俺の欲しかった言葉をくれる。
「翔ちゃん…」
「俺の愛、感じてない?」
今度はちょっと拗ねたような顔をするから、慌てて首を横に振る。
「感じてる!いっぱいいっぱい、感じてるっ!」
それでもさ
時々不安になっちゃうの
だって翔ちゃん、すごくすごくモテるんだもん
翔ちゃんは、元々ノーマルで
俺とは違って、普通の恋愛をしてきた人で
だから、今でもわかんないんだ
なんで俺を選んでくれたんだろう、って…
「俺はさ…智くんが智くんだから、好きなんだ。他の誰でもない、大野智って人に、惹かれたんだから…だから、もっと自分に自信持ってよ。俺が愛するのは、あなただけだよ」
翔ちゃんは微笑みながら、また俺の欲しい言葉をくれて。
じわんと、目の奥が熱くなった。