第1章 協奏曲 ─concerto─
「むー…」
「なに膨れっ面してんの」
大きく膨らましたほっぺたを。
翔ちゃんの指が突っついた。
結局、あの後甘~い空気にはならなくて。
まるで鳥に餌をやるみたいにして、腹一杯になるまで翔ちゃんにお肉を食べさせられた。
「だってさ~、これじゃまるで、俺は翔ちゃんの恋人じゃなくてペットみたいじゃん!」
「そんなことないよ。智くんは、俺の可愛い可愛い恋人でしょ。ほら、これ飲んで機嫌直して?」
もう一回ほっぺたを膨らませて、おもしろくない!って伝えてみたけど。
翔ちゃんは薄く笑いながら、俺にワインのグラスを渡してくる。
俺をからかって楽しんでたくせにさっ!
ごまかそうったって、そうはいかないかんな!
「…飲ませて」
「へ?」
「だって俺、翔ちゃんのペットでしょ!一人じゃ飲めない!飲ませてっ!」
グラスを押し返し、唇を突き出す。
「えー…」
翔ちゃんは、グラスと俺の顔を交互に何度も見て。
わざとらしく、仕方なさそうに溜め息をついて。
グラスのなかの赤い液体を、口に含んだ。
でもさ
わかっちゃったよ?
翔ちゃんのなかの、エッチなスイッチ入っちゃったの
だって翔ちゃんの目
野獣の目になったもん♡
焦らすようにゆっくり近付いてくる、真っ赤に熟れた果実のような唇を見ながら。
そっと目蓋を下ろす。
目蓋の裏で、仄かに灯るランタンの明かりを感じてると、少しずつそれが遮られていって。
ふ、と翔ちゃんの息遣いを鼻の頭で感じて。
次の瞬間、柔らかい唇が俺のそれに押し当てられた。
そっと唇を開くと、ちょっとぬるめの甘酸っぱい液体が入ってくる。
「んっ…」
一気に流れ込んできたそれを、必死に飲み込んでると。
熱い舌が、俺のなかに入ってきた。