第3章 Kissから始めよう
「お邪魔します」
「テキトーに座ってて。サイダー持ってくるわ」
「うん。ホント好きだね、サイダー」
日曜日。
結局、櫻井は本当に俺の家に遊びにきた。
まぁいっかぁ…
今日はうるさい姉ちゃんもデートでいないし…
父さんと母さんもさっき買い物出掛けたし…
昨日、男同士の予習はバッチリしたしな!
ついつい緩みそうになる頬を引き締め、ついついおっきしそうになるムスコを宥めつつ。
コップにサイダーを注ぎ、姉ちゃんがおやつに買ってあった高そうなクッキーをこっそり拝借して。
二階の自室へと戻った。
「お待たせっ!」
「あ、うん…ありがと」
きょろきょろと辺りを見渡してた櫻井は、俺の姿を見ると崩してた足を正座し、しゃんと背筋を伸ばす。
「そんな緊張すんなよ~。いつも通りにしてろって」
「あ、う、うん…」
そう言っても、表情は硬くて。
俺は心の中でこっそり溜め息をついた。
これ…
もしかして今日はダメ…か…?
「あ、あの、さ…」
「うん?」
「…はな…いる?」
「え?はな?」
「うん」
「あ~、さっき下にいたかも。連れてこようか?」
「うんっ!」
何気なく訊ねると、緊張気味だった表情をぱあっと明るく変える。
その変化に、胸の奥がきゅんっと音を立てた。
「ちょっと待ってろ」
急いで階段を駆け降り、リビングをうろうろしてたはなを捕まえて。
階段を二段飛ばしで駆け上がる。
「櫻井、連れてきたぞっ!」
胸に抱えた、ずっしりと重みのある体を膝の上に乗せてやると。
壊れ物を触るような手付きで、恐る恐るその背中に触れた。
「…可愛い…」
ゆっくりゆっくり毛並みを揃えるように撫でる櫻井の顔は、すごく優しくて綺麗で。
いやいや…
可愛いのはおまえの方だから…!
ドキドキと、心臓の音が耳元で煩く鳴った。
「ずいぶん大きくなったね?」
キラキラ光る瞳に見つめられて、さらに音が早くなる。
「あ…う、うん。こいつ、スゲー食べるから」
「そっかぁ。松本に愛されてるんだね。羨ましいなぁ~」
う、う、羨ましいっ…!?
突然の言葉に、顔がかぁっと熱くなったとき。
「ニャーン」
はなが一声鳴いて、櫻井のぷりぷりの唇をペロリと舐めた。